時は一日前に遡る。


「コウー」
どんどんどん
ドアを叩く音がする。
「コウー」
どんどんどんどんどん!!
ドアを強めに叩く音がする。
「コーウー!!!!」
どんどんどんどんっ!!
さけび声に近い大声と、ドアを殴打する声が・・・



―ッキンッ―



鋭い音がした。
眠りかけていた意識が一気に吹き飛ぶ。上体を起こし、男はもたれていた机の引き出しにしまっているものを手に取る。
即座にセーフティを外して構える。

ドアが勢い良く開いた。弾ける様に飛び出してきたそれにサイトを合わせて引き金を・・・
「おっしゃー!ピッキング成功ー!!」
プシュ・・・というジュースのプルタブを開けるような音が響いた。


「ん?何机に倒れてるんだよ、コウ」
「・・・いや・・・なんでもない・・・それよりも、だ」
見つからないうちに右手の陰に隠したサイレンサー付の銃器を引き出しに突っ込み直し、平静を装う。壁の一部に小さく亀裂が入っているのは、目の前の少年にはきっとみつからないだろう。
「それよりも?」
「コウと呼ぶな、ピッキングを使うな、人として最低限の礼節を守れ、以上だ」
一息で一気に言い連ねると、少年が眉根を寄せる。
「昼間っから高いびきで眠ってる方が悪いんだろうが・・・大体、ピッキングだのゴミあさりだの教えてくれたのはコウだろ?」
「ゴミあさりとかいうな。そもそも、お前が習いたいといったんだろうが」
「そりゃ、オレはコウみたいな私立探偵になるからな」
「・・・だから、コウと呼ぶなって言ってるだろ・・・」
男が頭を抱える。
男の名前は榊功(さかきいさお)といい。功、なのでコウなのだと少年は主張する。
少年の名前は薬師寺大(やくしじひろし)。奇特なことに私立探偵を目指して功の下で勉強を重ねている。

別段変わり無くいつもの通りに過ごしている日常は、24時間としないうちに決壊する・・・。
未来を知ることができたなら、功はこの場でどんな手を使っても彼をたたき出し、例えどんな印象を受けたとしても彼を自分から遠ざけていただろう。