Ye not

「・・・・・」 ムスッとした顔のままで前を行くヒロ坊の姿を見ながら 「・・・なんでコイツはこんなに怒ってるんだろう・・・」 という言葉を飲み込む。 「どうかしましたか?」 「いや・・・なんでもないが、一つ文句があるなら何でお前が出てきているのか…

「どなたか・・・いらっしゃいまして?」 声がした。場違いな、声が。 忘れていた。今日は、ここにはヤツがいた。 間違いなくこの場にありえないヤツの姿がこいつの目にとまった瞬間、いや、あるいは声が耳に入った今の時間も危険性は高い・・・。「な、おい…

時は一日前に遡る。 「コウー」 どんどんどん ドアを叩く音がする。 「コウー」 どんどんどんどんどん!! ドアを強めに叩く音がする。 「コーウー!!!!」 どんどんどんどんっ!! さけび声に近い大声と、ドアを殴打する声が・・・ ―ッキンッ― 鋭い音がし…

―現状把握一切合財逃げ場なし、いや、逃げ場は一応あるか。 ボクが何でもない振りをして立ち去ればいい。 証拠なんてないさ、大丈夫大丈夫。 足を動かして、背を向けて、歩き出せば・・・「―――は・・・・ぐ・・・ぅ・・・っ」足を動かして、背を向けて、「ぐ…

そもそも男の魔術師としての力量は錬度が浅く、それ以上の結界を敷くとなると大掛かりな儀式を用いるか、所々をほころびだらけにするしかないのであるから当たり前といえば当たり前であるが・・・結界は、公園を取り囲むようにしか張られていなかった。だか…

きぃ・・・きぃ・・・ブランコが揺れるたびに、きしむ音がする。冬の様相を見せ、葉もほとんどが落ちた木々に囲まれた公園の中、その男は立っていた。 ロングコートを羽織ったその姿はどこかの社会不適格職業のそれであり、無精髭と咥えたよれよれのタバコで…

―――――音がするぎちぎち、かしん。 ぎちぎち、かしん。―――――――――おとが、するぎちぎち、かしん。 ぎちぎち、かしん。 “報告報告、急がないと急がないと!” 声を上げながら、目の前を通り過ぎるものがひとつ。 お腹の部分にちくたくちくたくと動く大きな時計を…

ずぶり、と切開した胸部に右手を差し入れた。 ぐちゅぐちゅと内部を掻き分けながら、目当てのモノへと手を伸ばし、侵食を続ける。 「―――――ア」 ぐちゅ、 「――――――ア・・・ァ・・・ッ」 痛覚の関係上、脳に跳ね返る衝撃も尋常ではないだろう。なら、既に死ん…

腕が震える。 腕が震える。 腕が・・・敵対する恐怖はない。あるとすれば、憐憫。 だが、それももう終わる。震えのとまった腕を下ろし、心の中で封印解除の撃鉄を上げた。壁を凝視して、その向こうにいるであろう相手のいる空間を“視る”。 相手の姿は本来確…

銃をホルスターに収めた。 理由は簡単。単に、邪魔だったから。 なら何故棄てなかったのか?これも理由は簡単。 それがあの人の望みだから。 めきめきと音を立てて、右腕だったモノが、“ベツノモノ”に転化する。 「―――展開、拡散」 四肢を伸ばして蜘蛛の様に…

ほかより少しは安全、その程度でしかない。 相手が切り札を見せていないように、私の切り札もまだ伏せられたまま。しゅるり、と音を立てて、巻いていた包帯を外した。肩口にいつも巻いていた包帯。恐らく、今開放しないと間に合わない。 肩で鬱血しそうにな…

予備弾倉はあと3つ。 薬室に入っている弾丸を含めて、合計は・・・ 「60・・・あるかな・・・」 単純な計算のはずなのにそれすらもできない。 冷静さなんてない。 冷静に、 冷静に、 繰り返しても冷静になんてならない。 ここは危険だ ここは危険だ ここ…

かつて無くしてしまったもの。 これから失ってしまうもの。 そこにどれだけの違いがあるのだろう? 手に入れたと思った瞬間に掌から零れ落ちて消える。 追いかけれど届かない。離されない様に急いでも一緒 結局追いつけないのなら、それ以上は無駄。何をやっ…