「どなたか・・・いらっしゃいまして?」




声がした。場違いな、声が。



忘れていた。今日は、ここにはヤツがいた。
間違いなくこの場にありえないヤツの姿がこいつの目にとまった瞬間、いや、あるいは声が耳に入った今の時間も危険性は高い・・・。

「な、おい、ヒロ坊」
「ヒロ坊って言うなって言ってんだろ!!」
どうやら聞こえてなかったらしい。今がチャンスだ!
普段駆け引きにしか使わない脳味噌をフルアクセルで踏み抜く。
「あー、わかったわかった。とりあえず、外に出てろ」
「なんだよ!いきなり人のこと邪魔者呼ばわりかよ!!」

・・・逆効果、次!

「いいから、金は出してやるからコーヒーでも買って飲んでろ」
「・・・わざわざ金まで出して追い出そうって・・・怪しいぞコウ!」

・・・状況悪化!次!!

「いいか!お前の感じている感情は精神的疾患の・・・」
「言いくるめなら聞かねー」

・・・ダメだ・・・意固地になった・・・。

そして、

「あるじさま?どなたがいらっしゃっているのでしょう?」

・・・命令に(馬鹿正直に)従ってオレの寝巻き(だけ)を着たままのそいつが、湯気がたちのぼってるような上気した顔と、水気を帯びた髪で、異常に艶っぽさを漂わせながら風呂場の扉から顔を出した。


・・・気まずい空気は、そいつには理解できなかったらしく、戸惑いを顔に浮かべたまま時が止まってしまった俺とヒロ坊の間を所在投げにうろうろしていた・・・。
嗚呼、俺がだんだんと三枚目になっていく・・・。