「・・・・・」
ムスッとした顔のままで前を行くヒロ坊の姿を見ながら
「・・・なんでコイツはこんなに怒ってるんだろう・・・」
という言葉を飲み込む。
「どうかしましたか?」
「いや・・・なんでもないが、一つ文句があるなら何でお前が出てきているのかが気になる・・・」
俺の横で、腕に体を巻きつけながら耳元にささやくように言ってくるやつをゆるやかに引き剥がしながら言い返してやる。
「あら・・・?あの子もわたしも、同じ存在のようなものなのですから・・・二重人格と同じですわ」
「・・・嫌な例えだな、オイ」
「・・・・・」
前を行くヒロ坊の殺気が増えている・・・何でだ・・・。

とりあえず、修羅も羅刹も斬りとばす様な形相のヒロ坊をおしなだめながら、寝所にしている場所を飛び出してしばらく、異常にぎすぎすした世界が展開されている。

「それにしてもあるじさまって・・・そちらのシュミがおありでしたの?」
「・・・・は?」
今のは自分でも間抜けな声だったと思う。
「照れなくてもよろしくてよ。私、殿方のそういう趣きには理解があります」
「・・・言ってる意味がわかんねぇ・・・」
実はばっちりと理解できちゃいるが、知らぬ振りを決めておいた。

・・・つうか、想像すると恐ろしい想像になる・・・。





と、
「――あるじさま」
その目が“変わった”。
ゆっくりと口の中で呪文を呟く。
「――展開、保持」
見えない幕のようなものが、ヒロ坊とオレを遮断する。
簡易結界を作動させ、ヒロ坊から一時的にオレたちに関する記憶をぼやかして操作する。
「どこだ?」
「そちらの路地の裏のようですわね・・・」
ゆっくりと俺の手を引いて促す。



路地の裏手には、すでに大穴が開いていた・・・。