そもそも男の魔術師としての力量は錬度が浅く、それ以上の結界を敷くとなると大掛かりな儀式を用いるか、所々をほころびだらけにするしかないのであるから当たり前といえば当たり前であるが・・・

結界は、公園を取り囲むようにしか張られていなかった。

だからこそ男は、職務質問をしてくる官憲の眼を逃れて、たっぷり4キロは離れた自分の住居まで帰りついたことに対し、信じても居ない神様にその場限りの感謝をしていた。
「・・・さて・・・」
着替え代わりに自分の寝巻きでもととりだして、いまだ血まみれでいる女性に手渡す。女性はしばらくの間固まっていたが、やがて何かを言いたそうに男を見る。
「・・・どうした?英国と造りの違う風呂場だから勝手がわからないか?」
「・・・そうではなく、何故湯浴みをさせようというのです?」
「そりゃ当たり前だ」
何を言うのかといった調子で男が呆れ顔を見せる。
「お前のその格好見てパニック起こさない一般人が何処に居るよ?いいからとっとと風呂に入れ。話はそれからだ」
「・・・命令のままに」
納得がいったのか、それともいかなかったのかわからない無表情で、女性は風呂場に続くドアに向かった。


・・・その後男は、ドアの前で服を脱ぐためにしきりになるカーテンを探す女性に対して脱衣所の存在と日本の風呂場の認識を教え込むことになる。

「厄介だ・・・」そう呟く男は、数年分の寿命を浪費したあとのような顔をしていた・・・。